福岡地方裁判所 昭和38年(ワ)289号 判決 1964年4月14日
理由
原告ら主張の請求原因一、二の事実は当事者間に争いはない。
そこで本件公正証書が無効であるという原告らの主張について判断する。本件公正証書の嘱託作成にあたつて、債権者である被告会社の代表者大西福太郎は公証人役場に出頭しなかつたことは被告の認めるところであり、(証拠)を総合すると、訴外古野義之は債権者である被告会社の代表者大西福太郎に代わつて昭和三七年一二月一日本件公正証書が作成された日に福岡公証人合同役場に出頭し、主債務者である原告会社の代表者で連帯保証人である原告白石章および同じく連帯保証人である訴外矢津田方も右公証人役場に出頭し、右債務者らはいずれも訴外古野義之が被告会社代表者大西福太郎の代理人として出頭したものと信じて本件公正証書の作成を公証人楢原義男に嘱託したが、右公証人において訴外古野から提出された大西福太郎の印鑑証明書により同訴外人を大西本人と信じ同人および前記債務者らの嘱託により本件公正証書を作成し、訴外古野においてこれに直接右大西福太郎の署名捺印をしたものであることが認定される。前示原告本人白石章の供述中この認定に牴触する部分は前掲諸証拠に比照して採用することはできない。他に前示認定を動かすに足りる証拠はない。
以上認定の事実によると、訴外古野義之が直接被告会社代表者大西福太郎の氏名を前記公正証書に署名して捺印したものであるから、右は公正証書の作成手続に違背し瑕疵あるものというべきであるが、前記認定のように、債務者である原告白石章らが右公証人役場に出頭して訴外古野とともに前記公証人に公正証書の作成方を嘱託したもので、右古野が大西に代わつて直接大西の署名捺印をしたことに対しなんらの異議も述べなかつたことは前示証人矢津田方の証言によるも明らかであるから、本件公正証書の作成手続に右のような瑕疵があつても、右証書の内容をなす実体上の権利ならびに原告らの執行受諾の意思表示にはなんらの影響も及ぼさないものというべきであるから、右の瑕疵はいまだもつて本件公正証書を無効とする程度のものでないと解するのを相当とする。
以上説示のとおりであるから、本件公正証書が無効なりとする原告らの主張は理由がなく、本訴異議は失当。